証を立てる

 

 佐藤直史先生の治療でいつも驚くことがあります。それは、私がベッドに横たわってから、佐藤先生が鍼を打ち始めるまでのスピードが非常に速いのです。

 漢方では、患者さんを診てその症状に対する治療方針を考えることを、「証(しょう)を立てる」と言うそうです。佐藤先生はあの短い時間の中で、どのように患者さんを診て、いつの段階で証を立てているのでしょうか。

 「私が証を立てるためのプロセスは、患者さんの予約の電話の声を聴いた時からスタートしています。」(佐藤直史先生)

 「患者さんが治療院に入ってきた時の立っている姿勢、声の力、顔色、歩き方。ベッドに横たわり、「こんにちは」と挨拶をされるかどうか。もし、挨拶されなかったとしたら、それを忘れるほどに気分が優れないのかもしれません。返事の仕方、目の色、力、等々。これらすべての事が、証を立てるための情報になっているのです。」(佐藤直史先生)

 「実は、患者さんの身体に触れる前の段階で、既に自分の中にはっきりした証が立てられています。その後、初めて患者さんに触れ、腹診や脈状等を診ますが、これは自分の証が正しいかどうかを確認する目的で行います。」(佐藤直史先生)

 患者さんの身体に触れずして証を立てる。なぜ、このようなことができるのでしょうか。

 「これは積み重ねられた診断の経験によるものだと思います。西洋医学での診断方法というものもありますが、漢方ではじっと人を見る、ずっと人を見続けることで、その人の全体を把握するという診断方法をとります。」(佐藤直史先生)

 佐藤先生が鍼灸師になられてから24年、渋谷鍼灸治療院を開業されてからは17年。カルテの数は1万を超えているそうです。

 自分では気づかないところで、ずっと佐藤先生が私を見続けている。それは、まるで見守られているようでもあり、心地よく贅沢な安心感に浸れるのでした。
 
 
 
(文/青樹洋文 ただいま治療中…)

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