人業と神業

 初めて佐藤先生のことを知ったのは、振付師兼ダンサーである妻のこんな言葉でした。

 「(渋谷鍼灸治療院は)私たちダンサーの駆け込み寺のようなところ。公演本番直前のけがも、あそこに行くと直ぐに治してくれる。佐藤先生の治療はまるで神業」

 さて、私自身が佐藤先生に治療をしていただくようになって半年がたちました。その間、私自身が捉え始めた佐藤先生の姿は、妻の言葉とは少し異なるものでした。

 “神がかった天性の才能をお持ちの方”というよりは、21歳の時に鍼灸師になられて以来、一万人を超える患者さんと向き合い、努力と研究を重ねて、経験を大きく積み上げていらっしゃった方というものです。

 また、患者さんの痛みを治す経験だけではなく、ご自身が体験された痛みも、私には思い計ることのできないほどに大きなものであったろうということです。

 佐藤先生は8歳の時、11トン車にひかれ、内臓破裂、骨盤骨折、左大腿部挫傷、右臀部挫傷の重傷を負ったそうです。2年の入院の間に手術14回。その後3年間にわたりリハビリを行ってきました。

 「2年間ベッドの上で寝たきりでした。その間自分ができたこと言えば、窓の外の景色が変わるのを見ること、天井の穴の数を数えること、病室の人の出入りを感じることぐらいでした。病室から全く人が居なくなる時は怖くてたまりませんでした。一ヶ月以上物を食べずに点滴ですごしていると、点滴がジュースに見えたことさえあります。そんな毎日を送りながら、腸閉塞など様々な病気にかかり、常に死が身近にありました。」(佐藤直史先生)

 「皮膚を生で剥がされるなど、痛みというものがどういうものなのかを経験しました。痛みでベッドから飛び上がったこともあります。」(佐藤直史先生)

 まるで映画でも観るかのような佐藤先生のお話を聞きながら、私はこんな言葉を思い出していました。

 “人業(ひとわざ)を尽くすことなくして、神業など期待できない”
 
 
 
(文/青樹洋文 ただいま治療中…)


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