3)8歳の時の交通事故で2年間寝たきりの生活――リハビリ師がいない時代に、柔道で自らリハビリ

 

 道玄坂治療院で施術師として勤め始めた佐藤先生の施術には、さらにご自身の体験に基づいた、特徴的な理論が加わっていきます。

 「僕が医療に係わったのは8歳の時です。交通事故に遭い、骨盤を粉砕骨折し、左大腿部を挫傷し、内蔵破裂して入院しました。整形外科と外科手術で約5年間で17回の手術をしました。そのうち2年間はずっと寝たきりの生活でした。

 そのときの僕は、内蔵破裂、腸閉塞、左足の筋肉が壊死したために皮膚移植、骨盤が粉砕骨折してつながっているだけというような、身体の動きの悪さという症状を経験していました」

 身体の動きの不自由に苦悩していた佐藤先生ですが、他方、当時の医療は次のような問題を抱えていました。

 「当時はリハビリルームのことを物療室と言いました。ところが物療室はあっても物療士(物療技術士)、つまりリハビリをする先生がいなかったのです」

■21歳で身体障害者手帳五級を返却――パラリンピック選手に自らを重ねる

 佐藤先生は小学6年生のときに柔道を始めました。運動をすることで、自らリハビリテーション(※4)を行っていったのです。そして、21歳の時には身体障害者手帳五級(※5)を返却できるレベルまで、身体の動きを取り戻しました。

 「その後、理学療法(※6)という治療法が少しずつでてきて、理学療法士(※7)、作業療法士(※8)という方々が登場し始めました。現在、医学上では理学療法士とか作業療法士という呼び方をしますが、一般的にはトレーナーと呼ばれています。僕は、施術師としてその中に組み行ってきたというか、それらの理論を統合しながら仕事をしていたのです」

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、日本でも身体の不自由な方が活躍する機会が格段に増えてきました。世界のアスリートと競うパラリンピックの選手の活躍について、時々まぶしそうなまなざしで語る佐藤先生は、自らのリハビリのために柔道に取り組んだご自身の姿を、そこに重ね合わせているのかもしれません。

(※4)リハビリテーション
病気やけがなどによる後遺症を持つ人の社会復帰のために行う身体的・心理的訓練、職業指導など。

(※5)身体障害者 五級
身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)において5級には次のような障害が記されている。

◎肢体不自由
・下肢
1 一下肢の股関節 又は膝関節の機能の著しい障害
2 一下肢の足関節の機能を全廃したもの
3 一下肢が健側に比して5センチメートル以上又は健側の長さの15分の1以上短いもの
・体幹
体幹の機能の著しい障害

(※6)理学療法とは
病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法。

「理学療法士及び作業療法士法」第2条には「身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう」と定義されていまる。
(理学療法協会ホームページより)

(※7)理学療法士とは
理学療法士はPhysical Therapist(PT)とも呼ばれる。ケガや病気などで身体に障害のある人や障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持、および障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する医学的リハビリテーションの専門職。治療や支援の内容については、理学療法士が対象者ひとりひとりについて医学的・社会的視点から身体能力や生活環境等を十分に評価し、それぞれの目標に向けて適切なプログラムを作成する。

理学療法士を一言でいうならば動作の専門家。寝返る、起き上がる、立ち上がる、歩くなどの日常生活を行う上で基本となる動作の改善を目指す。関節 可動域の拡大、筋力強化、麻痺の回復、痛みの軽減など運動機能に直接働きかける治療法から、動作練習、歩行練習などの能力向上を目指す治療法まで、動作改 善に必要な技術を用いて、日常生活の自立を目指す。

理学療法士は国家資格であり、免許を持った人でなければ名乗ることができない。理学療法士は主に病院、クリニック、介護保険関連施設等で働いている。中には専門性を生かし、プロスポーツのチームに属している理学療法士もいる。
(理学療法協会ホームページより)

(※8)作業療法士とは
作業療法士は、病気やケガなどが原因で身体に障害や不自由さを抱える人に対して、医師の指示の下でリハビリテーションを行い、日常生活に必要な能力を高める訓練や指導をする仕事。作業療法士が専門とするのは、「リハビリ」のなかでも身体的・精神的なもの。

身体的なリハビリは、関節を動かしたり、筋肉を発達させる訓練を行ったりすることで、身体機能に問題を抱える人をよりよい方向へと導くこと。とくに食事、排泄、入浴といった日常生活を送るうえで必要になる動作(箸を持つ、炊事をするなど)を、リハビリによって訓練する。

また、精神的なリハビリは、精神に障害のある人などに対して、考え方を変えたり、あるいは気分を発散させたりするアプローチを行い、社会復帰を図る。

どちらの場合も、ただ機械的に訓練を行えばいいというわけではなく、患者さん一人ひとりと向き合って、その人に合った方法でのリハビリを行う。
(「キャリアガーデン」ホームページより引用)


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