日本で蘭学を広めたことで有名な緒方洪庵ですが、彼の薬箱の中には様々な漢方薬が常備されていたことでも知られています。江戸時代の末期の医療は、それまでの東洋医学と新しい西洋医学に携わる医師の間でのせめぎあいが激化した時期でもあります。
しかし、緒方洪庵はその対立に没することなく、医療のためには何が必要なのかを探求し、西洋、東洋に係わらず、様々な可能性を探求していました。
「これは医療に限らず、どんな仕事でも同じことだと思います。ひとつの理論で決め付けることはできなくなる」との考えを佐藤先生は示しました。その上で、垣根にとわれない最適な医術を探求し続けた洪庵の姿に、自らを重ねあわせるように、ご自身が研究し実践してきた様々な施術について説明しました。
「漢方でいう脈診。背骨のサブラクセーション(*9)を見つけるパルペーションという触診。マーゲン関係でみてきた腹診。あとは運動器系の機能障害。脳神経の係わる上部頚椎のこりというか、乳酸塩がたまってきてる部分を和らげるような治療。そして、普通では手に届かない深部の繊細な鍼の技術など、それらをミックスして患者さんを診てきました」
(*9)サブラクセーション
骨が定位置から少しずれる又は関節の機能障害が神経や血管を圧迫し、その状態が痛みを引きおこすなど周りの筋肉や臓器の機能に影響を及ぼすこと
■「鍼を打つだけ。あとは患者さんが動くことで可動域が広がり、回復までできる」治療
様々な施術を取り交ぜ実践されてきた佐藤先生の治療は、さらに次の段階へと進展しているそうです。
佐藤先生は、現在のご自身の治療について、非常に客観的に分析しています。
「漢方で言うところの、気血療法という言い方なのでしょう。それをどんどん実践していくうちに、現在僕の治療は、鍼を打つだけで、アジャスト(矯正)が必要ない状態まで経験的に近づいてきています」。
「たとえば、高齢になれば骨自体が弱くなってきます。そのため、骨をばバキバキと鳴らし骨格の歪みを矯正する整体などの施術は使えなくなる」と、佐藤先生は指摘します。
他方、「でも針灸は使えます」と佐藤先生は強調します。
「整体などをやらなくても、ちゃんとその箇所が緩んでいれば、患者さんが日常生活の中で動くことで、可動域が広がってゆき、回復させることができる。僕の治療は、そのレベルまでになってきています。そういう意味では、より幅広い年齢層の患者さんを診られるようになりました」。