4)患者さんが今日どうしたいのか、明日からどうしたらよいのかを理解する

■患者さんが今日どうしたいのか、明日からどうしたらよいのかを理解する

 佐藤先生は、患者さんを取り巻く様々な状況を見極めた上で、会話する必要性を強調します。

 「患者さんの社会的な状態、家族形態、現在の仕事の内容、人間関係など、ある程度把握した上で会話をする必要があります」

 そのような患者さんの状況についても知らなければ、患者さんのための治療にはならないからだ、と佐藤先生は訴えます。

 「症状だけを診るのではなく、患者さんが今日はどうしたいのか、明日からはどうしたらよいのか、わかってあげる必要があります。そのために患者さんとの会話が必要です」

 佐藤先生は筋膜性の炎症(ぎっくり腰など)を例にあげて説明しました。

■『3日間の安静』が必要でも「簡単には会社を休めない」

 「学校では、『筋膜性の炎症には3日間の安静が必要』と習います。しかし、教科書通りに『3日間絶対安静です!』と言ったところで、医療現場では『3日間も休めない!』『働かなければ!』という患者さんがほとんどではないでしょうか。

 でもそうなると、『じゃあ、安静にしないでいったいいつ治るんですか?』という話しにもなります。もちろん、そのような場合にこそ、僕らのような鍼灸師の仕事があるとも言えるのかもしれません」

 佐藤先生は続けます。患者さんには『3日間の安静』が必要だとしても、その患者さんの社会状況によって、それは違う意味を持ちます。

 「カルテには家族暦、社会暦という項目があります。どんな仕事をしているのか。今の状態はどうなっているのか。大卒で入社したのか。高校卒業して会社に入ったのか。それとも専門学校を卒業して専門職として入ったのか。たとえ年齢が同じであっても、入社時の状況によって、社歴は違ってきますし、仕事の内容も違うでしょう。大学を卒業して一般職ではいった人と専門職になった人では、職場におけるプレッシャーも違う。年収も異なってくるでしょう」

 職場における患者さんの立場によって、「簡単には会社を休めない」「休みにくい」など、状況は全くことなる可能性があります。

 佐藤先生の話は住居形態にも及びます。

 「生活している家がどんな状態なのか。1DKで家族3人で住んでいる人と、子どもがおらずに4LDで2人で住んでいる人では、その人を取り巻く環境は違います。

 また、大きな住居で暮らし、家事や掃除もその家庭の主婦が一人でやっているとしたら、体力的な負担も大きいでしょう。3日間安静にしていることは、それほど簡単なことではありません」

■地域医療によって地域に根付いていた町医者の役割

 職場環境や住居環境などは「簡単には変えられない」、という方が大多数なのかもしれません。

 佐藤先生は「『環境は変えられない』ということになれば、『では治療にも時間が掛かります』ということになります」と述べた上で、こう続けました。

 「継続した治療でない限りわからないことですが、患者さんが『簡単には変えられない』と言っていた環境も、2年、3年という時間の流れのなかで、変わってくるようです」

 佐藤先生は常々、「自分のことをよく知る主治医等による継続的な治療」の大切さを訴えています。そして、このような役割は、これまでは町医者がを担ってきたと言います。

 「地域医療で地域に根付いていた医師達は、その地域で何世代にもわたってその患者さんの話を聞いて、診てきたわけです。『腹を壊した』『首が痛い』『腰が痛い』『風邪をひいた』という患者さんの訴えが、どのような状況で、どんな環境のなかで発せられたものなのかも一緒に、町医者は見てきたのだと思います」

 しかし、近年では、患者さんを取り巻く環境を含めて全てを受け止めてこうと考えている町医者の先生は減りつつあると、佐藤先生は感じています。

 「いろいろな人がいます。さまざまな家族の形があります。多種多様な夫婦関係があります。そのことも含めて勉強をする必要があると思います」

(続く)


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